東北大学金属材料研究所 研究部共同利用・共同研究 第9回 若手萌芽研究最優秀賞

東北大学金属材料研究所 研究部共同利用・共同研究 第9回 若手萌芽研究最優秀賞

2021.09.30

東北大学金属材料研究所では、共同利用研究の促進のため、若手萌芽研究の採択課題の中から優れたな成果を上げた課題を、研究部共同利用・共同研究若手萌芽研究最優秀賞として表彰する制度を設けております。

令和2年度研究部共同利用・共同研究若手萌芽研究最優秀賞として、下記の2件が選定されました。

20K0061
静電浮遊法を用いたY3Al5O12融体の熱物性測定

宇宙航空研究開発機構:小山 千尋 研究開発員

研究概要:
融体の熱物性値は、結晶成長や鋳造等の融解凝固を伴う製造プロセスを設計する上で重要なパラメータです。アルミナ等の融点が2000Kを超える酸化物融体においては、従来の容器を用いた手法では容器との反応や凝固が生じ、融体物性を精密に測定することが困難でした。この問題を解決すべく、本研究では、浮遊装置の一つである静電浮遊炉を利用しました。本炉は、帯電させた試料と周囲に配置した電極間に働く静電気力で試料を浮遊し、位置制御ができる装置で、レーザー加熱により、3000 K以上の温度まで加熱することができます。非接触で溶融状態を維持できるため、100Kのオーダーで過冷却することも可能で、密度、表面張力、粘性係数、放射率、比熱など基礎的な熱物性データを取得してきました。本研究では、特にY3Al5O12や希土類酸化物の熱物性測定に焦点をあてて、過冷却領域を含めた広い温度領域で密度と粘性の測定に成功しました。今後はさらに多くの実用的な酸化物材料の融液物性測定を実施し、熱物性と融液構造や結晶成長との関係を明らかにすることを目指しています。
この場をお借りしまして、本研究を実施するにあたり種々のご支援を頂きました結晶材料科学部門の宇田聡教授ならびに岡田純平准教授に感謝の意を表します。

20K0038
誘電泳動力によるタンパク質の結晶化促進に向けた溶液セルの開発

北海道大学:山﨑 智也 特任助教

研究概要:
タンパク質は生体内で様々な役割を持つ機能性分子であり、その機能を生かした材料への応用が提案されている。しかし、タンパク質結晶の機能性材料としての実用化は未だに実現していない。この一因として、タンパク質の結晶化が難しいことが挙げられ、結晶化を自在に制御・促進する技術が求められている。そこで本研究では、電極と交流電場を用いて水溶液中のタンパク質分子に誘電泳動力を働かせ、これらを局所的に集めることでタンパク質の結晶化を促進させる溶液セルを考案した。この溶液セルを開発するための検討、及び、期待される現象を、タンパク質の結晶化を模擬したコロイド粒子の結晶化に適用し、コロイド粒子の振舞いを光学顕微鏡でその場観察することから検証した。コロイド粒子の粒径や交流電場の振幅及び周波数に応じ、形成される構造体のパターンや粒子間の距離が制御できることが観察された。本研究成果は、電極を搭載した溶液セルを用いることで、タンパク質分子を規則配列させ、構造体(結晶)の形成を自在に制御できる可能性を示している。

東北大学金属材料研究所 研究部共同利用・共同研究 第8回 若手萌芽研究最優秀賞

2020.10.06

東北大学金属材料研究所 研究部共同利用・共同研究 第8回 若手萌芽研究最優秀賞

東北大学金属材料研究所では、共同利用研究の促進のため、若手萌芽研究の採択課題の中から優れたな成果を上げた課題を、研究部共同利用・共同研究若手萌芽研究最優秀賞として表彰する制度を設けております。

令和元年度研究部共同利用・共同研究若手萌芽研究最優秀賞として、下記の1件が選定されました。

19K0089
二重ベータ崩壊探索用シンチレータ結晶の新規開発

筑波大学:飯田 崇史 助教

研究概要:
ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の観測は、素粒子ニュートリノの本質に迫り、物質の起源解明に関わるため、現代物理学において非常に重要な研究です。もし発見されれば宇宙が反物質でなく、物質で形成されている事実を理論的に説明出来ます。この二重ベータ崩壊の探索には高いエネルギー分解能を持つ検出器が不可欠です。そのため、シンチレータ結晶材料開発に高い実績を持つ東北大学金属材料研究所の吉川研究室と共同で、二重ベータ崩壊原子核(48Ca, 96Zr, 160Gd等)を含み、かつ発光量が大きく分解能が高いシンチレータの開発を行いました。
その結果、CaI2というシンチレータの開発に成功し、一般に用いられるプラスチックシンチレータと比較して約10倍の大発光量(107,000 [ph./MeV])と高い分解能を達成しました[論文1]。また、CaI2シンチレータにα線/γ線を照射し、その波形を調べることで、CaI2の高い粒子波形識別能を初めて明らかにしました[論文2]。さらに、CaI2のヨウ素(I)を一部臭素(Br)に置き換えたCa(Brx,I1–x)2シンチレータの開発[論文3]や、160Gdを含む(Ce0.005, La0.245, Gd0.75)2Si2O7 というシンチレータの性能評価[論文4]を行いました。以上の研究成果とその将来性が高く評価され、今回の受賞に至りました。現在は、開発した結晶の実用化に向けた研究や、新たにZr含有シンチレータの開発および特性評価を進めています。
[論文1] “Single crystal growth and scintillation properties of Ca(Cl, Br, I)2 single crystal”
[論文2] “High-light-yield calcium iodide (CaI2) scintillator for astroparticle physics”
[論文3] “Crystal growth and scintillation properties of Eu-doped Ca(BrxI1–x)2 crystals”
[論文4] “Pulse-shape discrimination potential of new scintillator material: La-GPS:Ce”